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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)3426号 決定

本籍

秋田県北秋田郡米内沢町米内沢字長下一一一番地

住居

大館市上町三番地

無職(元秋田県技師)

安東武雄

明治四四年二月二五日生

右虚偽有印公文書作成行使、詐欺、業務上横領、有印公文書偽造行使被告事件について昭和二九年九月二一日仙台高等裁判所秋田支部の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岡部秀温、同荒川正一の上告趣意第一点について。

所論は単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。のみならず所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つ平鹿地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を押印するときは、右文言と右押印とが相結合してここに該文書全体につき刑法一五五条の公文書偽造罪を構成するものと解すべきである。所論刑法一六五条二項前段の印章署名の不正使用罪は、その使用のみが独立して犯罪を構成する場合であつて、本件はこの場合に当らないこと前段の説明に徴して明らかである。論旨は採用できない。

同第二点について。

一般人をして公務所または公務員の職務権限内において作成せられたものと信ぜしめるに足る形式外観を具えている以上は、その作成名義者たる公務所または公務員にその作成権限がない場合においても刑法一五五条の偽造公文書というを妨げないことは所論指摘の当裁判所の判例(昭和二六年(れ)第二四三九号、同二八年二月二〇日第二小法廷判決。判例集七巻二号四二六頁)とするところであるばかりでなく、原判決も説示する如く、所論指示書と題する文書は平鹿地方事務所長の職務権限上作成し得べき文書に該当することは第一審第三回公判調書中の証人萩原秀三の供述記載によつてこれをうかがうことができるのである。そして該供述は所論の如く単なる意見としての供述と解すべきでないことは該供述調書の全趣旨に徴して肯認できる。この点に関する所論引用の判例は本件には不適切である。また本件指示書が本件三輪自動車の名義登録等に無益不要であつたとの所論は記録に徴し首肯できない。それ故所論はすべて採ることができない。

同第三点について。

所論は審理不尽を前提とする事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。のみならず記録上、被告人に所論指示書を作成すべき代理権限があつたとの事実は到底認めることができない。

なお、記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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